木内渚 interview

アルバイトスタッフ時代、マネージャーと売り場を作る仕事にやりがいを感じたのがきっかけで入社。副支配人を経験した後、FA制度で本部運営推進室へ異動し、2019年から「TOHOシネマズ流山おおたかの森」支配人を務める。

「利益を生み出す役割を担う」という使命感

「TOHOシネマズ流山おおたかの森」は、全国に3つしかない、新入社員の研修環境を備えた劇場の一つであり、客層も上映作品の幅も広いのが特徴。そんな劇場の支配人が感じる、お客様への思い、映画業界への思いとは。

支配人の判断が収益を左右すると痛感したある失敗談

「TOHOシネマズ流山おおたかの森」は、お客様の層がとても幅広い劇場です。人口伸び率の高い街で地域の皆様に愛されている劇場でもあり、車でも電車でもアクセスがよいので、会社帰りの方が立ち寄るニーズなどもあります。スクリーン数が多く、IMAXなど近隣の劇場には少ない設備もあります。こうした特徴から、話題作からミニシアター系の作品まで幅広い作品を上映しています。そのため、昔からこの街に住んでいるシニアの皆さん、30代~40代のニューファミリーのほか、かなりこだわりのある映画好きの方など、さまざまな方がいらっしゃるのです。

支配人として、そんな劇場だからこその失敗も過去にはありました。後に大きな映画賞を受賞したある大ヒット映画の話です。支配人の重要な仕事の一つに、それぞれの作品をどの座席数のスクリーンでどの時間帯に上映するかといったスケジュールを決める仕事があります。メインになる客層や話題性などをもとに決めていくのですが、その作品については比較的座席数の少ないスクリーンで上映することにしました。社会派の話題作というイメージで、どちらかというと都心の劇場向きの作品であり、うちの劇場ではそれほどニーズがないだろうと思ったからでした。ところが実際にチケット発売を迎えるとすごい反響で、あっという間に満席になってしまったのです。

満席になるということは、もっと売れたかもしれないチャンスを逃すということ。他のスクリーンと入れ替えるなど変更が可能であれば当然そうするのですが、そのときはさまざまな事情でそれもできず、本来なら最も大きな収益につながる初週の週末をみすみす逃す結果になってしまいました。そのときは眠れないくらい辛かったですが、そんな苦しさも、映画館の収益を左右する立場にあるからこそ味わえる、ある種の醍醐味だとも思っています。

マニュアルを重視しつつ、マニュアル外の対応をするポイントとは?

この劇場にはもう一つ大きな特徴があります。それは「研修室」が設置されていて、TOHOシネマズに入社する新人マネージャーが研修を受け、初めて現場の業務を経験する場になっていることです。研修を担当するのは基本的には運営研修室という部署の専属トレーナーですが、支配人である私はもちろん、現場のマネージャーやアルバイトスタッフが「教える」場面もあります。

そういう劇場の支配人として意識しているのは、日常の業務でもとくにマニュアルを重視すること。新人がマニュアルをしっかり読み込んで研修に臨むのに、現場の業務がマニュアルどおりになっていなければ、マニュアルの重要性に疑問が生まれてしまうからです。とくに飲食物の取り扱いなどお客様の安心・安全に関わる部分については、マニュアルの遵守を徹底しています。

とはいえ、お客様にGOOD MEMORIESを持ち帰っていただくためには、ときにはマニュアル通りではない対応をしたほうがよい場面もあります。では、マニュアルを重視しながら臨機応変に対応することをどう教えるか?そのためには、マニュアルの背景にある意図をしっかり伝えるようにしています。そのうえで「私はこう思う」という主観的な意見や、「こうでいいんじゃない?」という感覚ではなく、「こういうやり方をしてもマニュアルの意図は崩れない」と納得感のある説明をすることが重要なのです。

こう考えるようになったのには、私自身が本部の運営推進室でマニュアル整備を経験したことも影響していると思います。劇場の実態がどうなっているかが分かると同時に、劇場の現場ではこういうことを言い訳にしがちだが、ビジネス全体を考えるとそれではいけない、ということも分かるのです。

「利益を生む場」だからこそ、映画文化を支える役割を担える

映画館にとってコロナ禍は大きな試練でしたが、そんな中でも歴代興行収入の記録を作るような作品もあり、映画館への期待も感じることができました。誰かと一緒に話題作を見て、時間を共有し、そのあと語り合うといった「経験」の価値は変わらず、それを求めている人がいることを実感できたのです。とはいえ、コロナ禍で世の中全体が変わったからには我々も変わっていく必要があり、とくに業界のリーディングカンパニーとして、積極的に新しいサービスに取り組んでいくべきだと思っています。そのため、オフの時間にもつい、ヒントを探す目でものごとを見てしまいます。たとえばCDショップがイベントカフェを開催するといった、時代に合ったサービスが、映画館にも大きなヒントになります。そうした世の中の変化を把握して、劇場に反映していきたいですね。

もう一つ感じるのが「利益を生み出す場所」としての責任感です。この劇場ではミニシアター系の作品も上映するので、小さな配給会社とも対話する機会がありますが、お客様の入り具合やパンフの売れ具合などを気にして聞いてこられる配給会社さんもいらっしゃいます。そもそも劇場は作品があって初めて成り立つ存在であり、それを供給してくださる皆さんのことを考えると、何とか映画興行として成り立つようにしたい。上映回数を増やすのは難しくても、よい曜日や時間帯に配置することで、できるだけ貢献できるよう意識しています。そうやってより多くの映画関係者に利益を届けられるのは、実際に上映することで利益を生み出す場である映画館だからこそであり、そのことが映画文化の発展につながると思うのです。

自分自身の今後という意味では、今までにない支配人像を作ってみたいですね。現状では、支配人からのステップアップ先はスーパーバイザーか本部ですが、たとえば支配人をしながら本部の仕事も担当するなど、「支配人兼○○」というスタイルを作れたら面白いと思っています。「木内さんのために新しい役職ができたらしいよ!」と言われるようになれれば、あとに続く人も「自分も」と思えるはず。そんなふうに、将来がより明るく感じられる道を切り開いて行ければと思っています。

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