梶原徹也 interview

イベント関連の仕事をしていた前職時代、参加者が見せる表情の輝きに魅せられ、より日常的にそうした表情に触れる仕事がしたいと映画館業界へ。支配人を担当した劇場だけでも4館を数え、現在の「TOHOシネマズららぽーと福岡」では開業も手掛けた。

映画館が大きく変化する時代に立ち会う面白さ

2022年にオープンした「TOHOシネマズららぽーと福岡」は、九州初のららぽーととの同時開業、yogiboシートの導入など話題の多い劇場。新しい時代の劇場を作り上げる過程で支配人が考える、変わること、変わらないこととは。

同時開業の「ららぽーと福岡」とともに知名度アップに取り組む

「TOHOシネマズららぽーと福岡」は、2022年4月、ららぽーと福岡の開業とともにオープンした新しい劇場です。さらに今回は、ららぽーとにとっても九州初の出店。劇場の成功に入居先の商業施設の成功は欠かせませんが、その意味でも、お互いに密に連絡を取り合いながら、知ってもらい、足を運んでもらうための工夫に取り組んでいます。なかでも映画館ならではだと感じるのは、映画の製作側とららぽーと側のつなぎ役としての役割です。たとえば、配給会社や代理店に、「こういうポスターを掲示したい」といった要望があり、ららぽーとに「こういう季節のイベントをやりたい」といった要望があるとき、うまく組み合わせを考え、お互いのメリットになるようアイデアを出す、といったことに日々知恵を絞っています。

近隣の方に向けた招待上映や割引券の配布で地元のお客様を呼び込むよう努める一方で、福岡という土地柄、インバウンド需要も意識しています。とくに、日本アニメの人気が高く、福岡にも気軽に来られる韓国は有望なマーケット。ららぽーと福岡では、エントランスに実物大ガンダム立像が展示され、「ガンダムパーク福岡」が併設されていますが、こうした施設ともうまく提携しながら、海外からもお客様を呼び込んでみたいと考えています。

一方で劇場内を見ると、それぞれ別の劇場から集まってきた社員と、ほとんどが未経験者のアルバイトスタッフで、共通認識がないなかでチームを作っていかなければなりません。私がよく言っていたのは、「開店時に完璧を目指すと、張り切りすぎてしまってその先が見えなくなる。1~2年後に胸を張れる劇場になることを目指そう」ということ。そのためにも、笑顔の接客だけは守りつつも、ある程度のミスや漏れは許す心を持とうと呼びかけてきました。

全国初導入のyogiboシートなど新しい設備が多く、それを提供できることが楽しみな半面、どうオペレーションを確立するのかという悩みもありましたが、ふたを開けてみればスタッフが自然に新しい方法を考えてくれていて心強く思っています。

スタッフが胸を張って働ける場だからこそ生まれる価値がある

GOOD MEMORIESと言えば思い出すのが、以前「TOHOシネマズ天神」で支配人をしていたとき、退職するスタッフが残した「ここで働いてよかった」という言葉です。当初は設備も古くお客様も少なかった劇場が、リニューアルして接客も変わり、若いお客様が増えてどんどん忙しくなるなか、そのスタッフも楽しみながら成長していってくれた。友人に「あのTOHOシネマズで働いているの?すごいね!」と言われて誇らしかったというのです。

そうやってスタッフが胸を張って働ける場だからこそ生まれる価値がある。職場を「ホーム」だと思うことができれば、自然とサービスが変わり、自分の持ち場以外のことも自分ごととして捉えられるようになるでしょう。しかしそれ以上に、「働いたことで人生が豊かになるような劇場を作りたい」というのが私の願いです。私自身、多くの人と出会って今の成長があるのだから、仕事を通じてそれを返していきたいと思っています。

振り返ってみれば、前職ではイベントプロデュースの仕事をしていて、その中でお客様のキラキラ輝くような表情に触れ、もっとこういう表情を見たいと思って選んだのが映画館の世界でした。映画については全く興味がなく、作品の詳細などについては今も詳しい社員に教えてもらいながらの日々です。ですが、おじいちゃんと手をつないで来る子どもさんや初めてのデートで来る若い方、そういうお客様の表情を毎日見られることは何よりの幸せ。先日は、yogiboシートでお母様にくっついて映画を見ているお子さんの姿に本当に癒やされました。映画館には、そうやって家族の絆を深めることもできるんですね。

支配人になると接客以外の業務も増えますが、私は今もその日の営業開始時に劇場の入り口であるチケット売り場に立ち、お客様がどんな会話をし、何が気になっているかを捉えるようにしています。お客様のGOOD MEMORIESをつくるには「お客様目線以外にない」と思っているからです。

体験・感動を生む場として、新たなクリエイターに選ばれる場に

コロナ禍を経て、映画の鑑賞環境は大きく変わりました。最大の変化は配信という形が定着したことですが、私は「映画館が配信に取って代わられた」というより、純粋に「映画を見るためのチャンネル(手段)が増えた」と捉えています。映像作品をつくるクリエイターにとっては、単純に発表する場が増えたということであり、チャンスともいえます。

そんな中で、映画館が「新たなクリエイターを創出する場」にもなり得ると思っています。たとえばプロジェクションマッピングとの組み合わせなど、「映画館でこんなことができる」と発信することで、クリエイターに「そういうことができるならこんな作品をつくりたい」と感じてもらえるかもしれない。その舞台として選んでもらえるような仕掛けをしていきたいと考えています。

そんな映画館ならではの価値の一つが、「人が集まって1つの映像を共有する体験の場である」ということ。この価値を活かし、たとえば地元のサッカークラブのDVD上映会でも、幼稚園の発表会でもよいと思うのですが、固定観念にとらわれず、映画館のハコとしての可能性を見出していきたいと思います。

実は映画館にとって「配信は脅威になる」ということは、すでに10年くらい前から言われてきたことです。それがいよいよ実際にそうなってきたのが今であり、だからこそ、この先5年ほどは、映画館がガラッと変わる、とてもエキサイティングなタイミングだと思っています。その変化を楽しみたいですね。

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