医療事務職から転身。大分県内TOHOシネマズで約5年アルバイトを経験したのち、正社員に。地方の2劇場、東京都心の2劇場、本社での勤務を経て現在のTOHOシネマズ光の森(熊本)に赴任、入社10年目となる2024年2月より同劇場の支配人を務めている。
新しい出会いに満ちた地域のエンタメ拠点であるために
映画館のない地方で育ち、一大決心でTOHOシネマズへの転職を決めたA.M.支配人。常に「自分にできること」を考え、さまざまな環境を経験して成長した今、改めて地域ならではの劇場づくりに取り組んでいる。
自分では選ばなかった経験を、会社がさせてくれた
もともとは映画館で働くとは思っていませんでした。高校を卒業して初めて就いたのは地元九州の医療事務の仕事。映画館なんて身の回りにないような地域で、仕事の選択肢として考えもしませんでしたが、大人になって車を運転できるようになると行動範囲も広がり、映画館に行く機会が増え、働く場所としてイメージできるようになりました。医療事務の仕事もやりがいはありますが、病院で「また来てください」とは言えません。映画館ならもっと純粋に、ポジティブなやりとりができる。そう感じてアルバイトを始めたことが、私のTOHOシネマズでのキャリアのスタートでした。
その後、当時の副支配人に勧められ、社員登用試験を受けて正社員となり、熊本県のTOHOシネマズはませんから始まって東京都内のTOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ日比谷、富山県のTOHOシネマズ高岡とさまざまな劇場勤務を経験しました。初めて地元の病院に就職したときは「自分はここで一生過ごすんだろうな」と思っていたくらいで、TOHOシネマズに入社してからも勤務地については特に希望がなかったのですが、転勤で他の街に行ってみると面白い発見があったりする。「自分では選ばないことを会社が経験させてくれている」と感じています。
本社の内部統制室で勤務したことも大きな学びになりました。劇場運営においてなぜ必要なのかが分からなかったルールについても、その裏にある理由や仕組みを理解することができたのです。今は「この書類にはこういう意味があるんだよ」と背景を説明しながら現場のスタッフと話ができるようになり、劇場運営のすべてがつながって感じられるようになりました。訪れる変化を、本当にいい機会だと思って取り組んでいます。
自分らしさを大切に「当たり前」や「身近な気づき」を活かす
当社の基本理念「GOOD MEMORIES」のために心がけているのは、劇場スタッフ全員とのコミュニケーションです。若いアルバイトスタッフにとっても、上司となる支配人がオフィスでただ険しい顔をしているより、何かしら会話があるほうが居心地はいいはず。それにより売場での接客時にも自然と笑顔を出せて、お客様にとってもよい気持ちで映画を楽しむことができると思うのです。
支配人としていつも頭にあるのは、日比谷の開業時に当時の支配人が言っていた「当たり前を提供しましょう」という言葉です。私自身は「一緒にやろうぜ!」と周りを引っ張るタイプではありませんが、私もこれなら行動できる。そして「当たり前」の徹底は、お客様が安心して映画を楽しめる環境づくり、ひいては「GOOD MEMORIES」の提供にも必ずつながります。もう一つは、基本スタンスは現場に任せながらも、何かありそうなときにはこちらから察知してアクションを起こせる支配人でいたいということですね。精神的にはどっしり構えつつ、常にアンテナは張って、フットワークは軽く。これは、日本橋に勤務していたときの支配人を見ていて「こうありたい」と思ったことです。
一方で、映画館がテナント入居する商業施設の担当者とのやりとりや営業活動を通じて売り上げを伸ばすことも支配人の重要な仕事です。印象的だったのは、携帯ショップと組んで実施した抽選券配布企画です。きっかけは、営業活動がうまく行かず悩んでいたとき、休憩で劇場の階下にある商業施設内のファストフード店に入り、ポテトなどが当たる抽選券をもらったこと。ふと「この仕組みにうちのポップコーンを加えられたら面白いのでは」と思いつき、試しに抽選の主催者である携帯ショップに相談したら「ぜひやりましょう」ということになったのです。劇場としては、抽選券を配布する分の費用をいただくことができ、当選者が景品として交換するポップコーンやドリンクも携帯ショップ負担のためそのまま売上になる。お客様にも喜ばれ、携帯ショップにとっては集客になる。こうして全員にメリットのある仕組みを作ることができ、その後、他の九州エリアの劇場にも活動が広がっていきました。
もともと営業が苦手だった私がこのような成果を出せたことには自分でも驚いています。でも、もし営業のセオリーを知っていれば、型通りのことしかできなかったかもしれません。知らなかったからこそ「やってみよう」と思えたのかもしれませんね。
新しい世界に出会える場としての劇場を目指して
TOHOシネマズ光の森(熊本)があるのは、周囲に阿蘇などの行楽地を擁する緑豊かな地域。最初は天気によってお客様の来館数が全く違うことに驚きましたが、天気が良い日は皆さん行楽地に行かれてしまうからなんですね。車社会で、映画館に1時間とか1時間半かけて来られるような方も珍しくないため、ファミリー向け作品だと15時頃までの上映開始時間が勝負であるなど、他劇場とは違う特徴もあります。都心の劇場のように舞台挨拶や大規模なイベントが頻繁にあるわけではありませんが、その分、地域に合わせた工夫ができたり、今までになかった企画を生み出せるのが面白さだと思います。
またこうした地域だからこそ思うのは「訪れると何か発見や学びがあるような劇場でありたい」ということです。たとえば、インターネットでチケットを買うのは難しいと思っていたご高齢の方が、劇場での案内を受けてチケットを買えるようになるかもしれない。そうすれば、次はお孫さんとの間に「おばあちゃんがチケットを取っておいてあげるね」というコミュニケーションが生まれるかもしれない。そのような形で地方のエンタメ拠点になることが、選ばれる劇場であるために必要なのではないでしょうか。
私自身、子どもの頃には身近に映画館がない環境で育ちました。だからこそ、地方の劇場が「新しい世界に出会える場所」であってほしいと思います。できれば映画を観るだけでなく、子どもたちが「こういう仕事もあるんだ」「こんな体験ができるんだ」と感じられる場であるといい。そのためにも、当たり前のことを大切に、ご来館いただくお客様が安心して映画を楽しんでいただきまたここに来たいと思えるような劇場を作っていきたいと思っています。