TOHOシネマズ日比谷オープンの舞台裏


日本を代表する劇場をつくる。
『TOHOシネマズ日比谷』
開業プロジェクト

日比谷地区の一大再開発プロジェクト、『東京ミッドタウン日比谷』。その中にオープンしたのが『TOHOシネマズ日比谷』だ。日比谷は、昭和初期にオープンした『日本劇場』以来、観劇や映画観賞と深く結びついた歴史を持つ街であり、TOHOシネマズにとっては本社のある街でもある。さまざまな意味で特別なプロジェクトとなった『TOHOシネマズ日比谷』開業までのストーリーを、関わった社員の言葉を交えて振り返る。

PROJECT MEMBER

福井嘉輝

TOHOシネマズ日比谷 支配人

中学校での映画上映会の経験から劇場の仕事を志す。TOHOシネマズでは4館で支配人を歴任しTOHOシネマズ上田(長野)では立ち上げも経験。

坂口洋美

TOHOシネマズ日比谷 マネージャー

前任のTOHOシネマズおいらせ下田(青森)はコンセッション(飲食売店)利用率日本一の劇場。その経験を活かすべく、日比谷の立ち上げに自ら手を挙げた。

井上由貴

TOHOシネマズ日比谷 マネージャー

前職時代、会社帰りに通ったTOHOシネマズ日本橋で劇場の魅力に惹かれて転職。ユーザー目線を活かす接客で新プロジェクトに挑む。

石井洋行

新店・共同経営担当スーパーバイザー

TOHOシネマズ六本木ヒルズほか5館の経験を経てスーパーバイザーに。これまでにも新宿、上野などの新店舗立ち上げを手掛けている。

小山貴子

マーケティング企画部

地元仙台で広告代理店勤務ののち、TOHOシネマズに入社。現部門への配属前は劇場マネージャーとしてTOHOシネマズ仙台の立ち上げも経験。

CHAPTER 1「日比谷の伝統」を
共有できる組織づくり

『TOHOシネマズ日比谷』の劇場づくりは、2017年4月、スーパーバイザー(以下、SV)の石井が着任し、オープンまでのスケジュールを作るところから本格的にスタートした。有楽町・日比谷エリアを代表する劇場として永年愛された『TOHOシネマズ日劇』を閉館し、新たな劇場をオープンするというプロジェクトには、過去に多くの新劇場立ち上げに携わってきた石井も格別のプレッシャーを感じていたという。

「TOHOシネマズ日劇とその前身の日本劇場には、心から映画を愛し、支えてきてくださったファンの方々がいます。映画の街、日比谷の伝統を大切にしつつ、次の映画文化を作っていってくれる方たちでもある。必ずその方たちが喜ぶものを作らなければならないと思っていました」(石井)

支配人に指名された福井も同じ思いを抱いていた。「日比谷は業界のリーディングカンパニーである当社の本拠地でもあり、かつて東宝グループのフラッグシップであった日本劇場が存在した場所。『日本を代表する』という気持ちで、世界の興行主に見本としてもらえる劇場をつくらなければという思いがありました」(福井)

支配人として豊富な経験を持つ福井だが、日比谷のような都心の劇場を手掛けるのは初めて。計画を立てるべく、直前に開業したばかりの『TOHOシネマズ上野』に何度も足を運び、東宝創業者である小林一三の著書を何冊も読んだという。

石井の人選により日比谷の立ち上げに集められた劇場社員は、キャリア10年を超えるベテランから比較的社歴の浅い者まで、計17名。過去に例を見ない大所帯だが、その多くは「日比谷での劇場立ち上げ」をぜひ手掛けたいと自ら手を挙げた者である。映画好きが高じて転職し、入社後まだ1年あまりだったマネージャーの井上もその一人。「映画ファンの間でも話題の新劇場で、100年に一度のプロジェクト。傍で見ていて羨ましいと思うくらいならと思い切って手を挙げました」と語る。社歴の長さにこだわらず、意欲を重視して登用するのが今回の石井の方針。「大所帯だからこそ、経験の少ない人がいてもカバーできる。それなら、やる気を信じて経験を積ませたい」と考えたのだ。

CHAPTER 2「一緒に創る」を徹底し、
スタッフを育成する

大所帯のプロジェクトを、一体感を持って動かすのは容易ではない。過去にやはり大規模な『TOHOシネマズ新宿』を立ち上げた経験のある石井は、「誰に何を任せるか」を慎重に考えつつ、福井とともに綿密なスケジュールを練り上げた。

現場の責任者である福井も、大勢のメンバーをまとめるために考え抜く。答えとして選んだのが「共創」というコンセプトだ。「私一人でできることには限界があります。そこでみんなに、『一緒に創ろう』『意見を出してほしい』と呼びかけ、それぞれが培ってきた経験を活かすことを目指しました。すると、皆が自分の役割に自発的に責任を取ってくれるようにもなったんです。うれしい副次効果でした」(福井)

日比谷への思いを共有するため、エリアに関する資料も作成して配布した。この資料について、TOHOシネマズおいらせ下田から異動し、プロジェクトに参加したマネージャーの坂口はのちにこう語っている。「土地勘のない自分にとって、日比谷という場所に劇場を作ることの重みを実感するうえでとても役に立ちました」

こうして社員が思いを共有したところでアルバイトの採用が始まる。日比谷の劇場スケールを考えると、必要なアルバイトの人数は約200人。しかも、「日比谷のお客様」の眼鏡にかなう質の高い接客が全員に行き届いていなければならない。そこで石井は、これまでの経験を踏まえ、より積極性を重視した『攻めの研修』を決断する。アルバイト一人一人に役割を持たせ、それぞれの自主性・モチベーションを引き出す……石井と福井、そして2人の副支配人が共有したこの方針を、マネージャーが各自の方法でアルバイトスタッフに落とし込んだ。

ストア(グッズ売店)担当の井上が考えたのは「アルバイトが自ら動けるよう育てること」。そのために劇場運営の要である上映スケジュールをベースに、自ら計画を立てて作業を実行させ、振り返りで改善をしていった。

コンセッション(飲食売店)担当の坂口は、「アルバイトに職場を好きになってもらうこと」を重視した。「職場が好きになれないと、いくらコンセプトが分かっていても実践できないと思うんですよ」(坂口)ちなみに研修の現場は『TOHOシネマズ日本橋』。日比谷の建物への入居はまだ先の話だが、実際の現場を出来る限りイメージしてもらえるよう、研修に取り組んでいった。

CHAPTER 3日劇→日比谷とつながる思いが
社員・関係者・観客を一つにした

宣伝活動が本格的に動き始めたのもこの頃。まずは「ラグジュアリー」「プレミアム感」「他劇場とは違う非日常感」といった宣伝コンセプトが決定し、同時に、日比谷開館に先んじて閉館する日劇の「閉館プロジェクト」も動き出した。さらには、新館で使用するさまざまなツールや販促物の作成、SNSでの情報発信、各種イベント準備、取材対応と、さまざまな実務が発生。これを一手に引き受けたのが宣伝担当の小山だ。

とくに「大きかった」と振り返るのはオープン約10日前に行われた内覧会。このとき、関係者を招待して流したプレゼン映像に小山自身も心を打たれる。 「内容は、かつての日本劇場から現在までのTOHOシネマズの歴史を描き、『これからは日比谷で』とメッセージを伝えるもの。関係各社の期待の大きさを感じつつ、自分はこんな伝統を持つ会社で働いていたのだと改めて感動したんです」(小山)

さかのぼること、約一か月前、日劇閉館プロジェクトの企画上映会に立ち会った井上も同じようなことを感じていた。「『これからは日比谷で』という予告動画を見て、観客席がざわついたんですよね。新劇場に期待されるお客様がこれだけいるのだと改めて実感する機会になりました」(井上)

CHAPTER 4開業はスタート地点。
そして「日本を代表する」劇場へ。

そして迎えた2018年3月29日の『TOHOシネマズ日比谷』オープン。初日から『東京ミッドタウン日比谷』は大盛況。その盛況の中には、劇場フロアを目指すたくさんのお客様の姿があった。

この日のことを支配人の福井はこう振り返る。

「従業員一丸となって作り上げてきた劇場のクオリティには自信を持っていましたが、どのくらいお客様が来て下さるかはフタを開けてみないとわからない。ですので、正直不安もありました。でも、開業してみたらそんな不安が吹き飛ぶくらい大勢のお客様が来てくださった。単に新しいから来てみたという方だけでなく、昔からこの地域で映画を観てきた年配の方も来場してくださったことは本当にうれしかったし、初日は大阪や九州から来られた方もいて、注目度の大きさを痛感しました。あまりのことに、正直、感動している余裕もありませんでしたが!(笑)」(福井)

福井が研修の目標の一つとしていた「遠くからでもわかる大きな笑顔」もアルバイト全員が心がけ、実行してくれていた。その様子に別の感慨を抱いていたのがSVの石井だ。

「プロジェクトを通じて最も印象的だったのがこの瞬間。『これでようやくスタートラインに立てた』と思ったんです」。ゴールではなく、あくまでスタートライン。しかしこうして劇場が動き出すと、新店担当である石井の仕事は終わり、地域担当のSVに業務を引き継ぐことになる。「手塩にかけてきた劇場が手から離れるのは、毎回ちょっと切ないですけどね」(石井)

開業からしばらくは劇場への取材も多い。
「休みの日に家でテレビを見ていても、毎日のように私たちの職場が取り上げられている。こんな経験、なかなかないですよね」と振り返るのはマネージャーの井上だ。そして、最初の週だけで大小合わせて約30件も達した取材に支配人とともに対応したのが宣伝担当の小山。プロジェクトの全体を振り返って思うのは、「劇場の外側の世界」の大きさだ。「チラシ制作一つ、イベント一つとっても、多くの関係者が調整に動いています。劇場マネージャーの視点では『早くお客様に知らせてあげたいのになぜまだダメなのか』と疑問に思うこともありましたが、マーケティング部門から立ち上げを経験した今はそうなる理由もとてもよくわかります」(小山)。

映画を通じてお客様に楽しみを提供するのが劇場なら、それを支える宣伝もまた楽しさを作る仕事。「映画をお客様にお届けするための役割は様々。自分の仕事もその一環だと確信しています」(小山)

開業は無事終えたが、「運営はまだまだ道の途中。これからも上を目指していきます。」と支配人の福井は言う。さらなる接客のレベルアップ、キャッシュレスレジや自動釣銭機など先行導入されたシステムの活用……福井の考える「何年たっても劣化を感じさせない運営」を目指し、気を引き締める。「土地の歴史を知って街の人の思いをつなげ、発展させるのが支配人の仕事。たくさんの個性をまとめ、より良い音を紡ぐオーケストラの指揮者のように社員やアルバイトに、そして日比谷という場所にしっかり向き合って頑張ります」(福井)