安井昌宏の「創新」。
映画館にできる「映画以外の」仕事。

選ばれる映画館であり続けるために、映画以外の仕事で利益を上げる。技術革新に伴って、できることは無限に広がったが、自らの仕事は「あくまで援護射撃」と語る安井昌宏。その言葉に隠された「映画館」への熱い思いとは。

安井昌宏
劇場マネージャーを経験したのち、興行外収入の獲得を企画する営業本部マーケティング部企画営業室へ。同室で約10年のキャリアを持つ。

映画ではないことを映画館で。開拓してきた新ジャンルとは?

映画がデジタル化されたことで、映画館でもいろいろな新しいことができるようになりました。デジタルプロジェクターであれば、データさえあればどんな映像でも流せるし、中継や双方向のやりとりもできる。そこで、サッカーワールドカップのパブリックビューイングを開催したり、全国の劇場でX-JAPANの年越しライブを中継するなど、映画以外のコンテンツを流す、いわゆるODSにもいち早く取り組んできました。ODSは今や専用の配給会社もできているほどで「業界」として成立しています。こうした取り組みがそのきっかけを創ったとしたら・・・言い過ぎですかね(笑)。

他にも僕たちがやっているのは、舞台挨拶イベントなどのために映画館を貸す貸館事業、映画館の設備を活用してさまざまな形でシネアド(映像広告)を流したり、チケットのやりとりと同時に商品サンプルを配布したりする広告事業など、「映画興行ではない」部分で売り上げを得る仕事。だからこそ新しいことをやれるという部分もあります。

映画ではないにせよ、映画館を使ってできることといえばそれはやはり「興行」。条件は、人がその場所に出かけていき、お金を使って観るものであることです。たとえばスポーツなら家でテレビ観戦もできますが、「みんなで観たい」という気持ちがあるから興行として成立するんですね。さまざまなイベントを成功させるにも、そういう「映画館の本質」のようなものをはずさずにおくことが重要だと思っています。

※ODS(other digital stuff / other digital source)映画以外のコンテンツを映画館で上映すること。スポーツ中継・コンサート・演劇・オペラ・バレエなどの映像を大画面にうつし出す。非映画デジタルコンテンツ。

あらゆる角度から「選ばれる理由」を創りに行く。

映画館の外でも、全く新しいビジネスづくりに取り組んでいます。たとえば「T-net」は、今まで配給会社がUSBメモリにコピーして全国の劇場宛てに配送していた予告編データを、改変やウイルス混入の怖れのないセキュアな回線で配信する仕組み。配給会社には、USBを物理的に配送する代わりにこの仕組みを利用してもらい、利用料を頂戴します。デジタル化という技術革新があったからこそできるビジネスの一例です。

究極の目標は「選ばれる映画館である」こと。映画を観るお客様が、立地がいいから、サービスがいいから選ぶという側面もあれば、映画館を「使う」クライアントが、設備がいい、入場者数が多いといった理由で選ぶ側面もあります。その「選ばれる理由」を、映画興行とそれに伴うサービス以外にもたくさん創っていくのが、僕らの仕事といえるのかもしれません。

「映画館で映画を観ていただく」という本業あってこその「創新」。

新しいことをするには、先入観を捨て、前例の壁を取っ払うことが重要。そのための社内外に向けた働きかけを、今後も続けていきたいと考えています。

しかし「新しい」といっても、映画館の本業はあくまで映画を観ていただくこと。僕らの仕事はあくまでも、本業を支える援護射撃であり、業界が発展するための資金を稼ぐことなんです。こういうことができるのも、映画興行の本流を社内全体できっちりやっているからこそ。もし貸館がメインになってしまったら、もはや映画館である必要はなくなってしまう、ということを忘れてはいけないと思っています。

僕の願いは単純で、「未来においても映画館があってほしい」「子どもたちが大きくなる頃になっても好きな映画館で好きな映画を観てほしい」ということなんです。では、映画館が存続し、発展していくためにどう利益を上げていけばよいのか?そのことを今後も幅広く考えていきたいですね。