山口結登の「創新」。
劇場が「街づくり」に貢献する道とは

オフィスワーカーはたくさんいるが、遊びを求めてくる人はほぼ皆無。「映画文化のない日本橋に、映画を観に訪れる人の流れを作れ」。そんなミッションを与えられた「TOHOシネマズ日本橋」支配人・山口結登が、自らの使命を語る。

山口結登
中途採用で入社し、TOHOシネマズ木曽川でマネージャーと副支配人、TOHOシネマズ川﨑、TOHOシネマズ渋谷で支配人を歴任し、2014年3月、TOHOシネマズ日本橋の立ち上げ支配人に就任。

「週末に人がいない日本橋を成功させよ!」という難題

日本橋は、半世紀以上映画館のなかった街なんです。日本を代表する金融街であり、半径2kmの就業人口は日本一。でも遊ぶ場所がないから週末は人がいない。一方で老舗百貨店の街でもあり、年配の方は集まるが若い方はほとんど来ない。そんな、条件の厳しい街で新しい劇場を成功させることが、私にとっての「創新」でした。

日本橋に劇場を作るという話が出たとき、誰もが経営の厳しさを予測しました。支配人は劇場の損益を担う職務なので、本当なら利益の出やすい劇場で働くほうがいい。でも、私は難しいと思うと俄然やる気が出るタイプ。むしろこういう劇場で利益を上げられたら・・・と考えたんです。

劇場で利益を上げるには、お客様が観たい時間に快適に映画を観られるよう、需要と供給を合わせることに尽きます。需要に合った上映スケジュールを立てるには、日々蓄積された営業データを数字で見ることも大切ですが、やはりその場の雰囲気を体感することです。お客様がいつどんなスピードで集まり、満席で入れなかった人はどこに流れたか。そういった「空気」を知るには、映画を観に来る人の多い週末は絶対現場にいたいし、平日は平日で見ておきたいしで、いつ休むのかが悩みどころなんですよね(笑)。

道玄坂で人の流れを見ていた日々が教えてくれたもの

中途採用で入社して、マネージャーからステップアップ。川﨑の劇場で支配人を務め、支配人としては2店目のTOHOシネマズ渋谷でリニューアルオープンの立ち上げを担当しました。昔からある劇場を6スクリーンのシネコンに改装したんです。

ところがオープンしてみると、眠らない街・渋谷のはずが、夜の時間帯の動員が伸びない。なぜなんだろうと思って、劇場の目の前の道玄坂に立っては、その時間帯の人の流れをひたすら見ていたんですね。そこで気づいたのは、渋谷にいる人にとっての終電は意外と早いんだということ。というのは、渋谷から自宅までは電車を乗り継いで帰る人が多く、その人たちは、渋谷発の終電よりずっと早い電車に乗らないと帰れないんですね。これに気づいて上映スケジュールを工夫してみたら、劇的に動員が増え、入場者数を倍増させることができました。

もちろん、渋谷で正解だったことが日本橋でも正解だとは限りません。会社の多い日本橋なら、たとえばノー残業デーの終業時刻はいつ頃なのかといったことを、やはり現場の雰囲気を感じ取りながら考えています。支配人に求められるのは、目の前にある環境を見極めて、自分の価値判断自体を変えていくことなんですね。

街に新たな人の流れを創るため、チャレンジは続く

他の劇場とは全く違う取り組みとして、頻繁に日本橋界隈の関係者(百貨店や企業など)が集まるミーティングにも参加しています。法人営業にも積極的に取り組み、私自身が近隣の企業を回って、福利厚生用のチケット販売から貸館営業までいろいろなお話をしています。劇場の経営を成功させるだけでなく、この街に映画を観る文化と人の流れをつくり、「街づくり」に貢献したい。そのために、もっと喜んでもらえる劇場づくりを考えつつ、街に向けてもアピールを重ねていきたいと考えています。