ローカルな劇場で全国3位の動員を実現

都内にありながらローカル色の残る「TOHOシネマズ府中」。普段は子連れのファミリーや高齢者が多く集まる劇場でありながら、ある青春映画で全国3位の動員を達成できた理由とは?映画と劇場への愛に満ちた支配人のストーリー。

成田宗裕
大学時代に通ったヴァージンシネマズ(現在のTOHOシネマズ)の雰囲気にほれ込んで入社を決意。新卒採用がなかった当時、別の仕事で営業経験を積み、中途採用で入社を果たす。2015年より「TOHOシネマズ府中」支配人。

鑑賞する場としての映画館が好きで選んだ仕事

大学生のときに映画の魅力にハマり、地元の映画館に通い詰めていたんです。好きな映画を仕事にしたいと思っていましたが、映画を「作る」というよりは「観る」こと、そして鑑賞する場所としての映画館が好きだったので、ここで働くことを選びました。

入社してからは、地元に近い小田原に始まり、東京都心や地方を含め6カ所の劇場で働いてきました。そんな中で比べると、現在支配人を務めている府中は、動員規模は非常に大きいのですがローカル色が残るタイプの劇場。小さなお子さんのいるニューファミリーが多く、休日はご家族連れ、平日は高齢の方も多くいらっしゃいます。日ごろはそういう方たちが安心して楽しめることを意識していますが、イベントの多い都心の劇場と比べると、劇場スタッフがオリジナルな企画でこだわりを表現できる余地が大きい環境でもあります。

地元愛に火をつけ、地域の皆さんを巻き込んで上映の成功へ。

そんな府中オリジナルの企画として印象的だったのは、2016年に公開されたある青春映画の上映時のエピソード。その作品は少女漫画を原作としているのですが、たまたまアルバイトの女性スタッフと原作の話をしていたとき、作品の舞台が府中だという話を聞いていて、「地元としてぜひ動員日本一を取りたい!」と思い立ったのです。

それからはいろいろな関係先に働きかけました。こういうときに外部と直接交渉するのは、代表者である支配人の仕事。宣伝費がない中、できるだけ多くの市民の皆さんに「生まれ育った町の映画」であることを知ってもらうにはどうすればよいのか?と考えた結果思いついたのが、あちこちにある市の掲示板にポスターを掲出することでした。市役所に掛け合うと、「活性化につながる」と歓迎していただき、逆に市が作ったロケ地マップを映画館で配布するなどの協力企画も実現しました。また、配給会社にお願いしてキャストの方に「TOHOシネマズ府中においでのみなさん」と呼び掛けるオリジナル予告編を制作してもらったり、舞台挨拶の日には主要キャストを総動員してもらったり。舞台挨拶自体は他の劇場でも行われますが、都心以外の劇場で主要キャストが揃うというのはめったにないこと。当日は、キャストの控室にアルバイトが率先してデコレーションしてお迎えし、一緒に写真を撮ってもらうなど、非常に思い出深い取り組みになりました。

最終的な動員数は、惜しくも1位は取れなかったものの、池袋、梅田に続く全国3位。周辺に学校の少ない土地柄、通常なら、10代~20代をメインターゲットとした青春映画や漫画原作の作品では極端に動員が下がるのですが、大健闘の結果となりました。

次の映画につなげるために、利益を出すのが使命

今年になって、隣接する調布市に新しい映画館が開業しました。ファミリー層を中心としたターゲット設定はうちとほぼ同じで、ある程度はどうしてもお客様を取られてしまいますし、売り上げも落ちてしまいました。もちろん悔しいのですが、なかなか体験できることではないので、かえってやりがいも感じています。

今は、そんな状況を挽回するために何ができるかをあれこれ考えているところです。たとえば、メインターゲットであるファミリー層に向け、「子供を大切にしている劇場」であることをいかに表現していくか?まだ企画段階ですが、映画を観るとスタンプがたまるカードをお子さんに配布して、スタンプがたまったら映画館の中でバイト体験ができる、というようなプランも検討中です。そういう体験を通じて、子供たちに映画を好きになってほしい。劇場という非日常を味わってもらうのが我々の仕事であり、その「場」を作るためにあらゆる手を尽くしたいと思っているのです。

そのうえで、劇場の経営状態に責任を持つのも支配人の大切な仕事。自分では、「年間十数億円を売り上げる会社の経営者」だと思って日々努めています。

以前、会社の研修ビデオで見て印象的だったのが、監督・脚本家の三谷幸喜さんの「劇場スタッフは、エンドロールに乗らない最後のスタッフだ」という言葉です。映画を提供する場がなければ、映画はなくなってしまう。自分たちがお客様からチケット料金をいただき、それを配給会社に還元することで次の作品が生まれるのです。愛する映画のために、お客様にとって魅力的な劇場を作り、きちんと利益を上げていくことを、今後も意識していきたいと思います。