人を支え、育てる「みんなの女房役」

売上を上げるのも、安全な運営も、すべてのスタッフが力を発揮しないとできないこと。その基本となる人間関係を築いたのは「深夜の本音トーク」だった――「世界一の映画館」を目指す副支配人の努力とは。

久米知美
「TOHOシネマズなんば」にアルバイトスタッフとして入り、映写業務を担当。2011年に社内公募制度で正社員に。主にコンセッション(飲食部門)を中心に経験を積み、2016年10月、副支配人に昇格、2017年1月より「TOHOシネマズ宇都宮」副支配人に。

映画館が好きだから、自らの手で世界一の劇場を作りたい

私は昔から映画館が好きなんです。落ち込んでいるときも、映画館に来てシートに座れば、一人でも非日常な空間を味わうことができ、自分だけの時間が持てる。こういう感覚は、他のレジャー、たとえば遊園地などでは味わえないものだと思います。難しい年ごろだった高校生のとき、大好きな「ロード・オブ・ザ・リング」を観に劇場に足を運んでは、よくそんな時間を過ごしたもの。大学生になり、大好きだった「TOHOシネマズなんば」でアルバイトを始めたのも自然な流れでした。

そんなアルバイトスタッフ時代のこと。ある映画祭が開催されたとき、そこに出品した海外の監督が「この映画館は世界一だ」というメッセージを寄せてくださったことがあったんです。劇場はお客様にとって世界一であるのが一番ですが、作り手にもそう思ってもらえることもあるのだ、ということは衝撃でした。映画は「上映する」ところまでが作品。劇場は、作り手たちの努力や思いが結集した作品を、最高の形で上映しなければならない。それができていたからこそ監督はそういうメッセージをくださったのだと思うし、そういう劇場を作った支配人とそのチームはなんて素晴らしいのだろうと思いました。そのときから私の目標は「自分の手で世界一の劇場を作ること」になりました。

スタッフを指導するマネージャーをいかに育てるのか?

副支配人として宇都宮に着任したとき、「何とかしなければ」と思ったのは「人」の問題でした。まずはアルバイトスタッフが足りない。求人広告の出し方を変えたり、勤務条件を工夫したり、他館の副支配人にアドバイスを受けながらさまざまな手を尽くしました。

さらに、飲食店の売り上げを上げるのも、安全な運営も、働く人一人ひとりが力を発揮しなければできないこと。スタッフのみなさんにも、やりがいや楽しさを感じながら働いてもらうことが不可欠です。そのためには、私自身もですが、それ以上に、スタッフと直接接するマネージャーが、やりがいや楽しさを作り出せる人でなければなりません。でも、そのマネージャーたちが、本当は能力があるのに隠しているような物足りなさを感じていました。

もっとマネージャーに奮起してほしい。それを伝えるには、やはり本音で話すことが必要です。個人的には仕事の後に食事でも行って話せればいいなと思うのですが、交替制勤務でタイミング的に難しい事が多い。そこで代わりに、つい口が回りやすくなる深夜勤務の機会を狙って、一人ずつ、何気なく話をしてみたんです。ときには私自身の愚痴や弱音も交えつつ(笑)。そんなことを繰り返すうちに、一人ひとりがやるべきことを自覚し、積極的に動いてくれるようになりました。とくに私のすぐ下のマネージャーが奮起して、私の仕事もよく手伝ってくれるようになったんです。

安心して映画が観られる空間も、人の手で作られている

副支配人は、野球でいえばキャッチャー。あらゆることの女房役、橋渡し役だと思っています。一歩引いて、こぼれ落ちそうなものがあれば拾い、黙ってもとの位置に戻す。いつかは支配人を目指すなどステップアップしたいとは思いますが、今はこの役目を全うしたいと思っています。

「世界一の映画館とは何か?」という問いへの明確な答えはまだ出せていません。でも、一つ大切なのは「安心していられること」ではないかと思っています。100人単位の見知らぬ人同士が、重たいドアで区切られた真っ暗な空間にいるなんて、安全でなければ成立しません。そして、映画を観る人が安心していられるのは、きちんと整えられ、目が配られている安全な空間だからこそ。それを支えるのもまた人なんですよね。

必要なスタッフが確保でき、いい人間関係もできた今は、お客様が喜ぶ企画を立てる仕事にも取り組みたいです。地元のファミリー層のほか、年末年始やお盆には帰省客も多い劇場なので、ご家族連れが楽しめる企画、とくに着ぐるみ企画はぜひやりたい!(笑)劇場に集まったお客様が、着ぐるみと一緒に楽しげに写真を撮っている、そんな風景を見ているのが本当に好きなんです。